読了:『国家の罠』

佐藤 優氏の「 国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫) 」を読みました。

当時大騒ぎになった鈴木宗男をめぐる一連の事件を当時鈴木宗男とともにしていた外務省国際情報局分析第一課主任分析官という立場からの証言と、その後「国策捜査」の経緯を書き記した、この人にしか書けない一冊です。

歴史の記録、そして「国策捜査」を世に知らしめた良書

鈴木宗男氏をめぐる事件は、当時の田中真紀子外務大臣との確執から始まったように思います。

明らかに田中真紀子の言動は異常で違和感がありましたが、鈴木宗男も負けずに胡散臭さがありました。

当時なんだかよくわからない経緯でいろんな疑惑が噴出していました。「お前もやろ!」とのちに罵りたくなるどっかのバカ議員が疑惑の総合商社なんですよ!なんてことを言っていましたが、まさにそんな感じです。

だって、よく調べてみたら、関連する事件を上げると以下のようになります。

  1. ムネオハウス事件
  2. 国後島発電施設事件
  3. やまりん事件
  4. 島田建設事件
  5. イスラエル学会事件
  6. 政治資金規正法違反事件
  7. モザンビーク事件

当時はご本人の胡散臭さとマスメディアの熱によって、さして不思議とも思いませんでした。

本書の前半では、これら一連の事件は当時の小渕内閣の下、ほとんどの事件が正当な活動であったことが逐一説明されていています。そして、これらの疑惑が大きく取り上げられていく過程で国家の意思が大きく関わっており「国策捜査」として事件化されていくという説明です。

後半は裁判に至るまでの検察官とのやりとりが中心になります。

当時熱に浮かされたように政治家を糾弾した事件が事実はどうなのであったのか、報道されていることとは別の、まさに事象の中心にいた人物の目線で感じる「事実」が描かれていることには一定の意味があると思います。

そしてライブドアの堀江氏など他の人間も「国策捜査」なる言葉を口にしていますが、「そういうこともあるかもしれないな」と思わせる迫力は本書の文章には確かにあります。特に、後半の検察官との会話や交流は、フィクションとして読んでもなかなか面白いです。

ケインズ型公平分配路線で国際協調的愛国主義 v.s. ハイエク型傾斜分配路線の排外主義的ナショナリズムというのも「なるほど」と思わせる観点ですし、その後の歴史の動きを追って安倍内閣を見れば「ハイエク型傾斜分配路線の排外主義的ナショナリズム」の延長線上にあるというのは腑に落ちる話です。

鵜呑みにしないこと

内容は面白いのですが、個人的に気になったのは著者である佐藤 優氏の語り口です。

本書に書かれているように優秀な外務省 分析官だったのかもしれませんし、無欲で愛国心に溢れ信じる国益のために奔走した才能ある方だったのかもしれません。ただ、そういう人が自分を描いた文章から感じる雰囲気からは程遠い印象を本書からは受けました。

「地アタマの良さ」ということが本書の中に出てくるが、本書から感じる著者像はまさに「自分の地アタマの良さをそれとなく他人に誇示したい」人間です。

本書でも著者の「知識や教養の高さ」が多く描かれています。そして、著者がこういう「知識や教養の高さ」をもとにいかに秀でた推察や予測を行ったかというエピソードもたくさん出てきます。

ただ、「知識や教養の高さ」の表現のために使われる難しい用語や引用を無視して考えると、著者の言っていることは意外に単純なことです。「ケインズ型公平分配路線云々」の話も実は言ってることはすごく単純なことです。

そうして、そんな単純なことに国家が本当に官僚を使って手荒い「国策捜査」を本当にやることが見合うのか? と考えると、そのまま飲み込めない違和感を感じてしまいます。当時で言うと、割と人気があった安倍晋三を政治的に葬るならまだしも、明らかに胡散臭くヒールであった鈴木宗男氏を挙げることが政治的にそんなに意味があったのだろうかと疑ってしまいます。

いずれにしろ、私にはどちらが正しいか知る由もありませんが、知らない世界の話として読むのは面白い、でもこの作者はなんだか信用できないという感想でした。


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